疾患の解説

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  • 1.子どもの肝炎について
  • 2.肝炎を起こした子どもの治療



  • 1.子どもの肝炎について(原因や症状など)

    肝臓の働き

     肝臓は、お腹の右側にあるお腹の中で一番大きな臓器です。肝臓には、食物が胃を通って小腸で消化・吸収された栄養分から体に必要な物質を作ったり、エネルギーを作ったりする働きがあります。つまり肝臓は体の中で最大の代謝とエネルギーの工場であると言えます。ここでいう「代謝」とは、物質が化学的に変化してつくりかえられることをいいます。また、肝臓には食物中の脂肪分を消化・吸収するために必要な“胆汁”という消化液をつくって十二指腸へ送り出す働きがあります(図)。

    小児 肝臓


    肝炎という病気

     肝炎とは、様々な原因によって肝臓を構成している主な細胞、つまり肝細胞に炎症が起こって傷んでしまう病気です。炎症とは、ウイルスや細菌に感染した場所でそれらと戦うための “免疫力”が働いておこる反応とそれによる組織や臓器の障害のことです。この炎症という体の反応は、感染症の他に薬の副作用で起こったり、自己免疫反応といってウイルスや菌などの“敵”が居ないのに勝手に自分自身の臓器や細胞をあたかも“敵”のように見立てて戦いを始めてしまうことによって起こったりする場合もあります。

     感染によって起こる肝炎の原因の主なものは、いわゆる肝炎ウイルスという病原体の感染で、それにはA、B、C、およびE型肝炎ウイルスがあります。 A型肝炎は糞便により汚染された食物や水を摂取することで感染が成立する糞口感染や、魚介類の生食などによる経口感染がほとんどです。B型肝炎は輸血、注射針の使い回しなどによる不適切な医療行為などによる経皮的感染と、性交渉、分娩時の経粘膜感染によるものがあります。C型肝炎はウイルスに汚染された医療器具や輸血用血液の使用によりうつります。汚染された器具を用いて皮膚を傷つける行為(刺青、ピアスの装着、鍼など)によってもうつります。E型肝炎は糞便に汚染された飲食品からの経口感染・水系感染が主体となります。ブタやシカ、イノシシなどの動物はE型肝炎ウイルスを保有しており、これら動物の生肉やレバーなどを食べることによって感染することがあります。
     この他に、サイトメガロウイルスEpstein-Barr(EB)ウイルスなど肝炎を起こすことのあるウイルスがいくつかあります。学童期の子どもが罹るウイルス性肝炎は、上で述べたA, B, C, E型肝炎よりもこれらのウイルスの方が一般的です。これらは食べ物や便や血液を介してうつるのではなく、普通のかぜのような形で感染します。サイトメガロウイルスは乳幼児での感染が多く、EBウイルスは少し年齢が大きくなってからの感染が多い傾向があります。
     しかし、肝炎の場合は原因がウイルスの感染によるものばかりではありません。上で述べたように、薬が体に合わないために起こる薬剤性肝炎や、体質的な免疫の異常による自己免疫性肝炎、あるいは栄養の摂りすぎによって起こる脂肪性肝炎、大人ではお酒の飲み過ぎによるアルコール性肝炎などがあります。これらは原因によって適切な治療を選ぶ必要がありますので、できるだけ早く、適切に診断することが重要です。



    肝炎の診断

     では、肝炎という病気はどのようにして診断されるのでしょうか。肝炎に特徴的な症状の一つに“黄疸”があります。黄疸とは肝臓の状態が悪くなって、肝臓で作られる胆汁が十二指腸の方へうまく送り出されなくなることによって発生します。胆汁にはビリルビンという黄色〜濃い緑色をした色素が含まれていて、腸への胆汁排出が停滞するとその色素が血液の方に回ってしまって、皮膚や眼球結膜(白目)がだんだんと黄色くなってくるのが黄疸という症状です。この黄疸が観られれば、「肝臓が悪そうだ」と気付くことは難しくありません。しかし、初めからこの黄疸が現れて肝炎の発症に気付かれることは多くあまりありません。むしろ多くの場合は「疲れやすい、だるい、食欲がない、吐き気がする、おなかが痛い、微熱がある」などといった症状から、血液検査をして初めて肝臓が悪いことに気付かれます。

     血液検査では、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)やγGTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)という肝細胞が合成して蓄えている肝酵素の値が決め手になります。肝炎を起こして肝細胞が傷められるとこれらの肝酵素が血液中に漏れ出てきて、本来AST, ALTの値は5〜40 U/Lが正常ですが、肝炎ではこれを超えて100 U/Lから数100 U/L、時には1,000から数1,000 U/Lに上がってしまいます。これらの数値は肝炎の重さを表しますが、必ずしも症状の重さと比例するわけではなく、血液検査をすることによってのみわかるのです。原因も様々ですから、上で述べたいろいろなウイルスのチェックや炎症と免疫の検査を進めることになりますが、時には肝生検といって肝臓の一部を針で採取して、それを顕微鏡で観察する病理検査をして正確な診断をすることもあります。

     黄疸(おうだん)症状は血液中のビリルビンという検査値の上昇に現れます。肝炎を診断するときにAST, ALTが非常に高くてビリルビンの値も上がっている場合は重症であるとみなければなりません。さらに肝臓の働きが悪くなってくると、けがや病気で出血したときにそれを止めるのに必要な止血機能が下がってきます。これは肝臓で合成されて常にフレッシュな状態に保たれているべき血液凝固因子が十分作れなくなっていることの現れです。

    ただし、このような重症の肝炎が起こることは実際にはまれです。ASTやALTの値が高くなっていることがわかると、良くなるまで何度か採血を受けることが必要になりますし、時には入院して治療することになりますが、ほとんどの場合は原因を見きわめた後は体の安静を保って、時には点滴をして栄養と水分を補給しているうちに徐々によくなっていくものですから、あまり心配することはありません。ただし、体力を使いすぎて免疫力が下がったり、食事で十分な栄養が摂れなくなったりすると長引くこともありますから、主治医からOKを出してもらえるまではおとなしく検査を受けて体を休めるようにしましょう。

    (虫明聡太郎)